村上春樹 アンダーグラウンド

 今回の金沢帰省のお供にした本は、村上春樹さんの「アンダーグラウンド」でした。
 夫が数年前に読んで、話は聞いていて読むのを勧められてもいたのですが、自分自身で読みたい本もそれなりにあるし、ちょっと手が出ないでいたものの、帰省中はネットもしないつもりでいたので、空いた時間に読もうと持っていきました。

 
アンダーグラウンド (講談社文庫)アンダーグラウンド (講談社文庫)
(1999/02/03)
村上 春樹

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 文庫本で777ページの大作。しかも本文が上下二段に分かれているパートが大半。
 それでも引き込まれて結局一気に読むことができました。
 いや、一回ちょっと気持ちが内容に引きずられてめげたのですが、気を取り直して頑張ったのでした。
 
 単行本が1997年の3月20日に刊行されて、文庫になったのが1999年はじめ、夫が購入した2009年の時点で26刷まで行っているので、そこそこ読まれている本なのかなと思う。
 内容は、オウム真理教による1995年3月20日の地下鉄サリン事件で被害に遭った方への村上春樹さんのインタビュー集です。
 全部で62名の方が出てきます。

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 村上春樹さんの本はほとんど読んだことがありません。
 「ノルウェイの森」と、何か短編集、あとは翻訳物でフィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」と、アメリカの短編作家の誰だっけ、、レイモンド・カーヴァーの短編集くらいです。夫は村上作品をオリジナル小説を含めもう少し読んでいますが、なんとなくわたしたちは「村上春樹は翻訳物がいいね」と言っています。好みの問題なのですが。
 その夫がわたしにも読んだほうがいいとわりと強く勧めていたのがこの「アンダーグラウンド」でした。

 一人一人があの日地下鉄でなにを体験していたか、ということがリアルに伝わってくる、貴重な証言集(そして資料)だと思いました。
 村上春樹さんの証言者への配慮の仕方、距離の取り方のバランスがよいなと思うので、基本的にするすると読めます。さすがだなあと思います。
 でも、中にはPTSDになっている方もおられるようで、読んでいて気持ちが伝わってくるようで辛い部分もありました。
 それまで元気で働いていたのが、突然テロによってそれが奪われてしまうのです。

 ***

 被害に遭った方々で、取材を受けられた方は、月曜日の朝のラッシュ時間にオフィス街に向かう人たちですから、皆大変まじめというか、几帳面で、朝5時台に起きて7時過ぎに家を出て、日比谷線に乗って、千代田線に乗って……、ということを毎日されている方々がけっこういらっしゃいました。日本のビジネスパーソンたちです。
 サリンの症状が出てきているのに、足がふらふらなのに自分の仕事場へ向かおうとする人たちばかりです。
 本の途中から、当時のオフィス街で働く市井の人々の日常がどういうものであったのか、という風俗の記録のようなものに思えてきてしまいました。やはり今とは違うなと思います。95年には、まだオフィス街でもどこかのんびりした感じや仕事場での人情のようなものが残っていたのだなと思いました。それにも切ない気分になりました。それはまだブラック企業なんて言葉のない時代です。後半、そのことが鮮やかに立ち上ってくるように思えました。
 つまり、サリンのことよりも、そちらのほうがクローズアップされてくるように思えたのです。
 初めの数人の方のお話までと、後半のお話では、受ける印象が少し異なっていくように思えました。
 もしかすると、それは村上春樹さんの意図なのかなとも思います。
 
 でもあの日、この日本において、世界で初めて民間人に向かって毒ガスを使ったテロが発生してしまったのは事実です。
 9.11もかなりひどいけれど、オウムという小さな団体がやったことを考えると、こちらのほうが怖いような気もしました。
 (本文中に出てきた坂本弁護士とも友人だった被害者の会の弁護士によると、事件前に警察にはオウムがサリンを使ったテロを起こす可能性について速達で上申していたそうです)

 当日のテレビの報道特番の動画です。これわたしも見ていたような気がする。。。


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 この本を読んでいて辛い感じがしてきたのは、取材される方々の体験がリアルに迫ってきて圧倒された部分もありますが、そのように途中から意識させられたオフィス街の人々と、自分が違う人種である、ということを感じたからだと思います。
 つまり、わたしはどちらかと言えば、オウム側の人間であろうということを思うからです。いえ、完全にそうなんですよね。
 それは、当時から思っていたものです。
 95年の時点で、わたしはもうチャネラーとしてお金をもらう形で活動をしていました。
 
 わたしは以前にも書きましたが、歴史上に「魔女狩り」という現象があることを知った高校生の頃から、わたしが惹かれる神秘主義のようなものは、社会から迫害を受けやすいものなのだということを意識していました(わたしは小学生高学年の頃にはもう西洋占星術の12星座の名前と種類くらいは頭に入っていたような人間です)。
 悪いことしなくてもそうなのに、なんてことしやがったんだ! と思いました。
 あの日、なんとなく、これはオウムなのではないか、と思いましたよね。。松本サリンの後自分たちで「アメリカから攻撃されてる」とか騒いでいたし、、なんとなく、わたしはオウムだろうなと思った記憶があります。テレビの報道を見ながら。
 それで、ああ、また生きにくくなってしまうんだ、と思ったのです。
 そう思って、実家のベランダから空を見上げた記憶がはっきりとあります。

 それから、わたしはチャネリングの仕事を続けましたが、どこかでブレーキをかけながらやっていたと思います。
 オウムみたいになってはいけないと思っていました。いえ、オウムみたいなものと一緒にされるようなやり方をしてはいけないと思っていたのです。
 だから自分自身のチャネリングに対しても、盲目的であってはいけないと思っていました。
 その後、そういうこと、つまりオウムの自分や業界に対する影響について、周りのスピリチュアルが好きな人たちや、そういう占いやなんとか療法などを仕事にしている人たちと話をしてみたいと思っても、少し投げかけても取り合ってもらえないことが分かっていきました。「ああ……」という感じでスルーされてしまうのです。

 皆、まったく考えたくないくらいにショックだったのか、自分には関係ないと100%自信を持って言えるくらいにあの事件を見ることができていたのか。
 わたしは自分の不安も含めて、そういうことを関係者と話したいと思っていたのですが、それを言葉にする頭も、経験もまだありませんでした。
 たぶんその頃からです。
 漠然と、自分は文章も書いたほうがいいのではないかと思い始めたのは(だって他者が話したがってくれないのなら、勝手に書いていくしかないのだもの)。
 チャネリングや霊視をお客さんに提供しているだけでは、何かが足りないと思うようになったのは、1995年のオウム・サリン事件からなのかもしれません。

 ***

 そのことを、忘れていたのですが、この本で思い出しました。
 あの3月20日のことを、昨日のことのように思い出したのです。
 あまりに鮮やかに蘇ったので、私の中で、あの日のまま止まったなにかがあるのだと思います。
 それを言葉にしていくのが、自分にとっては大事なことなのではないかと今思っています。

 村上春樹さんの「アンダーグラウンド」には続編があり、それは元オウム信者へのインタビューでできているそうです。
 その本も注文しました。
 ネットで随分オウムのことも調べました。ずっと恐ろしくてできなかったことです。
 今、とても考えさせられています。

 とにかく、あの事件についての自分の体験や感覚について再び接触しようと思えたので(そして時間を進めようと思えたので)、村上春樹さんの「アンダーグラウンド」を読んでよかったです。
 直接的なオウム事件のルポルタージュ本などはいつまでたっても読む気になれなかったと思うので、とてもよいきっかけになりました。
 よい本だと思うのでおススメです。
 
 イギリスディスカバリーチャンネルのオウム事件のビデオ。
 地下鉄内の再現映像がなかなか迫力があります。







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