宝田明さんの戦争体験

 先ほど、あるテレビ番組でとっても感動したのでそのことを書きます。

 まず今夜は、夫と借りてきた映画、ソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキーの「惑星ソラリス(1972年)」を見ていたんです。
 これはSF映画ですが、わたしたちは後にアメリカのスティーヴン・ソダーバーグ監督がリメイクした「ソラリス」を以前観ていまして、あらすじは知っていました。
 まあ、一部で名作とされている映画なので見てみたのですが、、、30分で脱落(笑。ソダーバーグ版はよかったような記憶があります)。

 タルコフスキーの映画は、10代の頃がんばって観ていたのです。「サクリファイス」、「ノスタルジア」、「ストーカー」、「鏡」(脱落せず全編観ていますよ)。
 「ストーカー」は例の高校のときの変わり者の倫理の先生が授業で観させてくれて、あれはよかった印象。
 でも「サクリファイス」や「ノスタルジア」は断片的に映像がきれいなのはきれいだけど、内容はチンプンカンプンで(どちらも2回ずつくらいは観ている)、、、でもその頃、ミニシアター系映画にかぶれている人間は「タルコフスキーはすごい」って言わないといけない雰囲気だったんです。去年観たベルイマンみたいに。
 でも、、、、タルコフスキー、過大評価じゃないの???
 小津の「東京物語」の足下にも及ばなくね?(それを言っちゃあおしめえよ)
 もったいつけすぎなんだよなあ。。。(ワイダ先生はそんなことはしない)
 鉄のカーテンの向こうの旧ソ連のお芸術映画、という雰囲気に騙されていたんだな、と思いました。
 辛口すぎるかな?(若い頃、小津もまともに観ないで、そういうものに飛びついて分かった気分になっていたのですね、恥ずかしい)

 そんな感じでがっかりしていたのですが、テレビのリモコンを移動させていたら、誰かが真剣にお話をされている声が聞こえるので思わず手を止めました。
 そこでお話をされていたのは、俳優の宝田明さんで、自身の少年時代の戦争体験のお話でした。
 BS日テレでやっている「深層NEWS」という番組です。
 
 ***

 72年生まれのわたしは、宝田明さんの全盛期をリアルタイムでは知りませんで、なんとなく、キザな感じのイヤラシいおじさん、とずっと思っていました。あまり好きじゃなかったです。
 去年、はじめて本多猪四郎監督の「ゴジラ(1954年)」を観て(タルコフスキーよりいいと思う!)、デビュー直後の宝田明さんを観ましたが、やはりちょっとイヤラシくてあまり好きではないなと思っていました。

 この方が、、、、
 大変壮絶な戦争体験をしていらっしゃいました。。。

 宝田明さんは当時日本領だった朝鮮で生まれ、2歳で満州にうつり、そこで終戦を迎えるわけなのですが、家で家族全員で食事している中、ソ連兵がやってきてひどいことをされたそうです。
 行方不明になったお兄さんと生き別れになってしまいましたし、危険を冒したためにソ連兵から狙撃されたこともおありで、お腹に銃弾を受けてしまわれたそうです。

 ソ連兵が家に略奪にやってきたときのお話では、銃を向けられめぼしいものを奪われたあと、お母様だけ別室に呼ばれた、と言い、言葉を詰まらせました。
 スタジオが水を打ったように静かになって、、嗚咽をこらえている宝田さんに、キャスターの女性が「辛い話をさせてしまってすみません」と涙声で声をかけていらっしゃいました。
 宝田さんは、お話の中で、「母はソ連兵に強姦された」という風には、ついにおっしゃることはなかったのですが(お母様もそのことは終生語らなかったそうです。あまりに辛いお話です)、そういう目に遭っているのは自分たち家族だけではない、満州中で、もっと田舎の地域でも、ソ連兵による略奪、暴行、強姦はあったのだろう、と、そういう言い方で、「強姦」という言葉を使われました。
 その言葉をきちんと使われたことが、とても立派だと思いました。
 その言葉を使わずごまかすことなく、精一杯の形で自分が体験したことを伝えて下さいました。

 その後も、壮絶な体験談が続いて、ただただ呆然と、テレビを見ていました(珍しく背筋を伸ばして見ていました)。

 番組が終わったあと、声を出して泣いてしまいました。
 
 キザなイヤラシいおじさんだと思ってた宝田明さんが、このような思いをされてきたとは。。

 ***

 今読むのが棚上げになっているジュリアン・ジェインズの「神々の沈黙」で、とても考えさせられる記述がありました。
 戦争に負けた側に、勝った側の兵士がやってきて、略奪や強姦が繰り広げられる。
 ここで、目の前で妻を犯されたとして、そこで「神の声」を聞いて従ってその敵側兵士に闘いを挑む、そういう人間は、結局生き残らない。
 そこでじっと耐えられる人間が、生き残っていく。
 つまり、自分や他人を一時的にではあっても「欺く」ということができる人間が、生存競争では生き残ることができるのだ(そういうことがくり返されていくうちに、「神の声」を聞く正直すぎる(? 単細胞ってことか?)人間が減っていった)。
 そのような内容でありました。
 そのことを、思い出しました。
 その場にいた、宝田さんのお父様、お兄様、宝田さんのことを、責めることはできません。
 そこでソ連兵に立ち向かっていたら、きっと皆殺しに遭いますから。。。
 お母様も、そのことが分かっていらしたのだと思います。

 人間というのは恐ろしいもので、切ないものだなと思います。

 宝田明さんは1934年生まれで、父の一つ歳上です。
 今、戦争を知らない世代が増えてきていて、日本が不穏な方向に行きそうに思えて憂慮しているとのことでした。
 戦争は、絶対にいけない。
 そうハッキリおっしゃって、お話は終わりました。
 本当に重い言葉だと思いました。

 わたしの父も、きっとそれなりに戦争を体験したのだと思います。
 でもほとんどそのことを語らず、最期には失語症を伴う認知症になって亡くなりました。
 もっといろんな話を聞いておけばよかったと思うことは多いです。
 でも、戦争の話はしたがらかなったんですよね。。。
 父も雑学を披露するのが好きで、どうでもいいことをよくしゃべって、かっこつけたがる人でした。
 少し宝田さんと似ているのかもしれません。
 あの世代の特徴なのかもしれません。

 きっと勇気を持ってこういうお話をしてくださるようになったであろう宝田明さんに、感謝したいと思いました。
 言い方が悪いのですが、、、戦争を体験されている方々には、生きているうちに、いろんな話を残しておいてもらいたい、そんな風に、心から思います。

 以下のリンク先に、宝田さんの戦争体験のインタビュー動画があります。10分弱のものですが、やはり壮絶です。ぜひ見ていただきたいです。とくに若い方に見ていただきたいです。→ [わたしの戦争体験] 俳優 宝田明・戦争体験

 
 *おまけ*
 昨日の空@ベランダ↓
140808sora.jpg



 
 

 
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 今日見たテレビ番組 - ジャンル : テレビ・ラジオ

コメント

貴重なお話をありがとうございます。

北さん

こんにちは。宝田さんの貴重な体験談のご報告をありがとうございます。
私も昨日は関西系の放送今日のニュース番組で、シベリアに抑留されていた方の体験談を拝見しました。
当時食べるものがなく、(体重は20キロは減ったとのこと)とにかく口に入るもの、爬虫類の肉なども食べて生き延びたとおっしゃっておられました。

現在はいろいろな小学校に出向き、ご自身の体験談を話しながら、戦争の悲惨さを子どもたちに伝えておられるようです。

私の両親ももちろん戦争体験者で当時の様子を話には聞きますが、やはり自分が体験していないので、実感として感じられないというのが正直なところです。

ただ、私たちの両親や、ご先祖さまたちがそのような状況の中、必死で生き延びてきてくださったおかげで、今の自分たちが存在しているということにはこの上ない感謝しています。

ところで、私も若い頃映画がとても好きで、アメリカに留学したのもそれがきっかけでした。当時は豪快なハリウッド映画が好きだったのですが、今はその手のものはたまに気分転換に観る程度です。

今はむしろ、事実を伝える社会的なドキュメンタリーのような作品に引かれます。
北さんは映画にとてもお詳しいようですので、またそのへんもいろいろ教えていただけたら嬉しいです。

それではよい夏をお過ごしください。

戦争

美紀さんおはようございます。

私は身内から戦争体験を聞いたことはありませんが、思い出したり、話すのはとても辛いことだと思います。


私は子供の頃からアンパンマンが好きなのですが、これは作者やなせたかしさんの戦争体験から生まれたのだそうです。
弟が戦地で亡くなったこと、自身も戦地に行って飢えに苦しんだこと。

困っている人に自分の顔を食べさせて助けるヒーロー(ご存知なかったらすみません)。
本当の正義とは、そうして自分も傷つくことだ、という思いが込められているのだそうです。


一昨日の新聞に、原爆の日の特集記事が載っていましたね。
建物の下敷きになった子を助けることができず、苦しんでこられた方が書いた絵を見て、涙がでそうにりました。

絶対に繰り返してはいけませんね。

今日は曇りで、猛暑は少し和らぐでしょうか。
お互い体調に気をつけましょうね。

Re: 貴重なお話をありがとうございます。

noriさんこんにちは、コメントありがとうございます。

今年も8月がやってきて、戦争の記録や証言の報道が増えましたね。
関西は広島・長崎が関東よりは身近に感じられるのでしょうか。

シベリア抑留も大変だったのですよね、、、寒さがすごいですものね。。。
わたしは93年にモンゴルに行っているのですが、モンゴルにも日本兵の抑留があったそうで、草原の中にある墓地(簡易なものです)も訪問しました。
寒くて食べ物がなくて、、、辛かったろうなあと思います。
その場で、日本兵の霊が「よく来たね、ここは風が強いよ」と言ったような気がします。気のせいですが(笑)。

戦争は、やはり自分が体験していないとリアルに実感はできないと思います。
でも、お話を聞くことで想像して、自分なりに考えを持つことは可能だと思います。
人間の社会にはいろいろなことがあり戦争がつきまといますが、やはりわたしは反対の立場です。

noriさんも映画好きでいらっしゃるのですね!
アメリカ留学までされているとはうらやましい!

わたしは恥ずかしながら高卒で、教養のない人間ですが、とにかく映画はよく見たので、そこから学んだことは多いと思っています。若い頃は読書もあまりしなかったので映画が教科書でした。
中学の頃はハリウッド映画、高校からミニシアター系映画へとうつりました。
中学のときに観た戦争映画の「プラトーン」は衝撃でした。
恐ろしかったけれど、これが人間の極限の姿なのだと思って、それ以降、戦争映画というジャンルも避けずに観ています。
そういうことで、戦争を理解しようと務めることは可能かなと思うのです。。。

映画の話をしだすと長くなります(笑)。
わたしも、ドキュメンタリーというか、史実を元に創られた映画が好きでよく観ています。
実在した芸術家や革命家の映画などでしょうか。とても勉強になりますよね。

台風が近づいているので、体調や事故など注意しましょうね!

Re: 戦争

あきさんこんにちは、コメントありがとうございます。

そうなんです、父はあまり戦争の話をしたがりませんでした。
家族の中で一人だけ学童疎開に出たので、すごく淋しい思いをしたようです。
そういうことの代わりに、どうでもよいことを話したがって、、、でも子供心に、打ち消したいのだろうな、と、漠然と感じていました。
無理にもっと話してよ! と言うこともできないし、、、難しいことです。

6日のこと、今年も新聞で報道があったのでよかったですね。
これがされなくなったら、日本の報道界の良心が消えたということだと思います。
そういう意味でも、毎年チェックしたいと思ってしまいます。
明日は長崎ですね。。。69年前とはいえ、そんなことがあったなんてちょっと嘘みたい、と思ってしまいますね。。。核爆弾を一般市民の上に落とすってさ。。。

「アンパンマン」、何度かアニメを観ていますよ。やなせたかしさんは子供の頃、絵本を読んだことがあります。
やはり戦争を体験して生き地獄を味わった人というのは強いなと思います。死ぬまで現役ですもの。
わたしの好きなポーランド人監督のアンジェイ・ワイダもレジスタンス運動の生き残りで、80代で現役監督をされています。
こういう人たちの創るものを、受け止められる人間でありたいと、強く思います。

小平は先ほどささっとゲリラ豪雨が通り過ぎました。少し涼しくなるかな。。。
体調気をつけましょう!

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)